もやし
小学校に上がったくらいの時だったと思う。
おばあちゃんの家に遊びに行って、特にやることがなくなって暇を持て余していた僕は、鉛筆とコピー用紙をおばあちゃんに借りた。
鉛筆の線をコピー用紙に2、3本走らせたところで、おばあちゃんが『なにを描いているの?』と聞いてきた。
暇だったので2、3本走らせてみただけで、特に何を描こうとは思っていなかった僕は、『もやし』と答えた。
そのままじゃないか。と29歳になった僕はいなすだろうが、当時55歳くらいだったおばあちゃんはとても良い反応をしてくれた。
『すごい!ゆうちゃんは才能がある』
僕はうれしくなって、もやしを栽培しまくった。
A4に所狭しと線を引くもやし農家。
お母さんとおばあちゃんの元へ次々と出荷するもやし農家。
それ以来、僕は自分のことを絵が上手いと思い込んだ少年になる。
描いたのは、2、3本のヨレヨレの線なのに。おばあちゃんがすごいだけなのに。
何十年後か、もし自分の孫が2、3本の線を「もやし」だと言って見せてきたら、僕は感極まってしまうかもしれない。
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